「ただ、応援してほしいだけなのに…」
「会社を辞めたい」
その決意を、一番分かってほしい人。そして、一番言えない人。それが「親」という存在なのかもしれません。
受話器を握りしめ、何度も言葉を飲み込む。
「せっかく入れた良い会社なのに、もったいない」 「みんな大変なのは同じ。もう少し辛抱しなさい」 「将来はどうするつもりなの？」
聞こえてくるのは、心配という名の、鋭い言葉の刃。あなたの心を理解してくれないどころか、罪悪感という名の重りを、さらに心に乗せてくる。
分かってる。親は、あなたのことを心から心配してくれている。あなたの幸せを、誰よりも願ってくれている。だからこそ、あなたの決断を簡単には受け入れられない。その愛情が、今はただ、苦しい。
この記事は、そんな板挟みの状態で動けなくなっている、優しいあなたのために書きました。これは、親と戦うための理論武装ではありません。あなたの本当の気持ちを、穏やかに、誠実に伝え、無用な衝突を避けて、あなたの最大の味方になってもらうための、心の物語です。
第1章：なぜ、あなたの言葉は届かないのか？親世代の「地図」を理解する
あなたの言葉が親に届かないのは、あなたと親が、全く違う時代の「地図」を持っているからです。
親世代の地図
•ゴール: 一つの会社に勤め上げ、定年退職という港に無事たどり着くこと。
•道: 「安定」と書かれた、一本の太い道。脇道に逸れることは「落伍」を意味する。
•常識: 「石の上にも三年」「終身雇用」「年功序列」。我慢と忍耐は、成功への必須スキル。
あなたの地図
•ゴール: 自分が心から納得できる、幸せな生き方を見つけること。港は一つではない。
•道: 無数の選択肢が広がる、自由な荒野。道は、自分で創り出すもの。
•常識: 「転職はキャリアアップ」「ワークライフバランス」「個人の尊重」。自分らしくいられない場所からは、離れる権利がある。
親は、古い地図を頼りに、あなたの航海の安全を願っています。一方あなたは、新しい地図を広げ、未知の大陸を目指そうとしている。これでは、話が噛み合わないのも当然です。
だから、まず必要なのは、親の地図を否定することではありません。「あなたの時代は、それが正解だったんだね」と、その価値観を一度、受け入れてあげること。その上で、「でも、私の時代は、地図が変わったんだ」と、新しい世界のルールを、根気強く説明してあげる必要があるのです。
第2章：「報告」という名の、自立宣言
親に伝えるとき、最も重要な心構えは「許可を求める（相談）」のではなく、「決めたことを伝える（報告）」というスタンスです。
「辞めてもいいかな？」と聞けば、親は「親の役割」として、あなたを古い地図の安全な道に引き戻そうとします。そうではなく、あなたは、一人の自立した大人として、自分の航海の計画を、堂々とプレゼンテーションするのです。
そのプレゼンテーションを成功させるための、3つの準備をしましょう。
1.【航海の目的】なぜ、この船を降りるのか？ 「嵐がひどくて、もう船が壊れそうだから（心身の限界）」というネガティブな理由だけでなく、「もっと素晴らしい宝島を見つけたから（新しい目標）」というポジティブな未来への意志をセットで伝えます。「辛い毎日から抜け出す物語」で見つけた、あなたの「希望のシナリオ」を、ここで具体的に語るのです。
2.【航海の計画】次の港までの、具体的な航路 「とりあえず海に出ます」では、親は心配で夜も眠れません。「まずは、近くの安全な島（実家など）で船（心身）を修理し、航海資金（失業保険）を確保します。その後、この海図（転職活動計画）を元に、宝島を目指します」と、具体的で現実的な計画を示すことで、あなたの決意が、無謀な冒険ではないことを証明します。
3.【感謝の言葉】これまでの航海への、感謝 「この船に乗せてくれて、今まで航海を見守ってくれて、本当にありがとう。でも、僕は（私は）、自分の船で、自分の力で、新しい海へ漕ぎ出したいんだ」と、これまでの感謝を伝えることで、親もあなたの「船出」を、寂しさと誇らしさが入り混じった気持ちで、見送ってくれるはずです。
第3章：それでも、嵐がやまない時は
これだけの準備をしても、親という名の「嵐」が、あなたの船出を阻もうとすることがあるかもしれません。
その時は、一旦、港に戻りましょう。無理に船を出す必要はありません。そして、こう考えてください。
「今は分かってもらえなくても、私が宝島にたどり着き、幸せそうな便りを送ることが、何よりの親孝行になる」と。
あなたの人生の船長は、あなたです。最終的な出航の判断は、船長であるあなたにしかできません。「「私なんかが、辞めてもいいの？」その罪悪感の正体と、自分を許す方法」で自分に許可を出したことを、思い出してください。
どうしても一人で嵐に立ち向かう勇気が出ないなら、退職代行という「水先案内人」を頼るのも、賢明な判断です。彼らは、荒波を乗り越えるプロフェッショナルです。
エピローグ：あなたの船出を、心から応援している
親に自分の決断を伝えることは、あなたが本当の意味で「親離れ」し、一人の大人として自分の人生の舵を取る、神聖な儀式です。
それは、とても怖くて、とても勇気がいること。でも、その儀式を乗り越えた時、あなたは、これまで感じたことのないような、誇らしさと、自由を、その手にするでしょう。
あなたの船出が、希望に満ちた、素晴らしいものになることを、心から祈っています。い、応援しています。い、応援しています。い、応援しています。
